遠足統率
一九二五、五、七、
もうご自由に
ゆっくりごらんくださいと
大ていそんなところです
そこには四本巨きな白楊(ドロ)が
かがやかに日を分劃し
わづかに風にゆれながら
ぶつぶつ硫黄の粒を噴く
前にはいちいち案内もだし
博物館もありましたし
ひじゃうに待遇したもんですが
まい年どしどし押しかける
みんなはまるで無表情
向ふにしてもたまらんですな
いつかも騎兵の斥候が
秣畑をあるいたので
誰かゞちょっととがめたら
その次の日か一旅団
もうのしのしとやってきて
大演習をしたさうです
たてっつづけに鶯がないて
花樹はときいろの焔をあげ
またから松の一聯隊は
青く荒さんではるかに消える
えゝもうけしきはいゝとこですが
冬は空気が乾いてゐて
からだにはよくないらしいです
中学校の寄宿舎へ
ここから三人来てゐましたが
こどものときの肺炎で
みな演説をしませんでした
七つ森ではつゝどりどもが
いまごろ寝ぼけた機関銃
こんどは一ぴき鶯が
青い折線のグラフをつくる
あゝやって来たやっぱりひとり
まあご随意といふ方らしい
あ誰だ
電線へ石投げたのは
くらい羊舎のなかからは
顔ぢゅう針のささったやうな
巨きな犬がうなってくるし
井戸では紺の滑車が軋り
蜜蜂がまたぐわんぐわん鳴る
(イーハトーヴの死火山よ
その水いろとかゞやく銀との襞をおさめよ)