巨杉
一九二五、四、一八、
地(ヂン)蔵堂の巨きな杉が
青くまばゆい天椀に
もくもくもくもく盛りあがるのは
けさは何かの呪文を喰った
空気の海の海坊主とも云はれさう
横手は古い法眼の家で
さくらもしだれの柳もまはり
蕾蓮華のかたちの窓や
風にひなびた天台寺
かしこくむら気な桜場寛の生れた家だ
……地獄のまっ黒けの花椰菜め!
そらをひっかく鉄の箒め!
木に変へられた青唐獅子のばけものめ!……
小さなときに寛がこゝらで遊んでゐて
この木を木だとおもったらうか
……木は天頂の巻雲を
悠々として航行する……
いまやまさしく地蔵(ヂンゾー)堂の正面なので
樹はまっすぐに天をつき
二本の幹の間には
九級ばかりの石だんや
赤い鳥居が炭酸水に色あせて
日ざしの草もなまめけば
上の小さな広場では
粘板岩の石碑がくらく
鳥もすだけば
こどものボールもひかってとぶ