人が林で小麦の盤を食べてゐる
一九二五、四、五、
小麦粉とわづかな食塩とからつくられた
白い鋳物のこの円盤のうまいことよ
どれにもみんな大といふ字が浮いてゐる
大といふのはどういふわけだ
あの百姓が大蔵とでも云ふのだらうか
発破か何かで足をけがして
こんな仕事をしてゐるらしい
白銅一つごく叮ねいに受けとって
がさがさこれを数へてゐたら
赤髪のこどもがそばから一枚くれといふ
あの百姓は顔をしかめて
やぶけたやつを見つけてやって
腹ではくつくつわらってゐた
林は西のつめたい風の朝
小麦のこのパンケーキのおいしさよ
わたくしは馬がほうれん草(さう)を喰ふやうに
アメリカ人がアスパラガスを喰ふやうに
すきとほった空気といっしょにむさぼりたべる
こんなのをこそ speisen とし云ふべきだ
……雲はまばゆく奔騰し
野原の遠くで雷が鳴る……
林のバルサムの匂を呑み
あたらしいあさひの蜜を塗って
わたくしはこの白い終りの一枚を食ふ