四一〇

     車中

                  一九二五、二、一五、

   

   ばしゃばしゃした狸の毛を耳にはめ

   黒いしゃっぽもきちんとかぶり

   まなこにうつろの影をうかべ

      ……肥った妻と雪の鳥……

   凛として

   ここらの水底の窓ぎわに腰かけてゐる

   ひとりの鉄道工夫である

      ……風が水より稠密で

        水と氷は互に遷る

        稲沼原の二月ころ……

   なめらかででこぼこの窓硝子は

   しろく澱んだ雪ぞらと

   ひょろ長い松とをうつす

 

 


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