三五八

     

                  一九二五、一、九、

   

   あんまり眩ゆく山がまはりをうねるので

   ここらはまるで何か光機の焦点のやう

   蒼穹(あをぞら)ばかり、

   いよいよ暗く陥ち込んでゐる、

     (鉄鉱床のダイナマイトだ

      いまのあやしい呟きは!)

   冷たい風が、

   せはしく西から襲ふので

   白樺はみな、

   ねぢれた枝を東のそらの海の光へ伸ばし

   雪と露岩のけはしい二色の起伏のはてで

   二十世紀の太平洋が、

   青くなまめきけむってゐる

   黒い岬のこっちには

   釜石湾の一つぶ華奢なエメラルド

      ……そこでは叔父のこどもらが

        みなすくすくと育ってゐた……

   あたらしい風が翔ければ

   白樺の木は鋼のやうにりんりん鳴らす

 

 


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