峠
一九二五、一、九、
あんまり眩ゆく山がまはりをうねるので
ここらはまるで何か光機の焦点のやう
蒼穹(あをぞら)ばかり、
いよいよ暗く陥ち込んでゐる、
(鉄鉱床のダイナマイトだ
いまのあやしい呟きは!)
冷たい風が、
せはしく西から襲ふので
白樺はみな、
ねぢれた枝を東のそらの海の光へ伸ばし
雪と露岩のけはしい二色の起伏のはてで
二十世紀の太平洋が、
青くなまめきけむってゐる
黒い岬のこっちには
釜石湾の一つぶ華奢なエメラルド
……そこでは叔父のこどもらが
みなすくすくと育ってゐた……
あたらしい風が翔ければ
白樺の木は鋼のやうにりんりん鳴らす