三一四

     業の花びら

                  一九二四、一〇、五、

   

   夜の湿気が風とさびしくいりまじり

   松ややなぎの林はくろく

   そらには暗い業の花びらがいっぱいで

   わたくしは神々の名を録したことから

   はげしく寒くふるえてゐる

   ああ誰か来てわたくしに云へ

   億の巨匠が並んで生れ

   しかも互ひに相犯さない

   明るい世界はかならず来ると

      ……遠くでさぎがないてゐる

        夜どほし赤い眼を燃して

        つめたい沼に立ち通すのか……

   (祀られざるも

    神には神の身土がある)

   松並木から雫が降り

   わづかのさびしい星群が

   西で雲から洗はれて

   その二っつが

   黄いろな芒を結んだり

   残りの巨きな草穂の影が

   ぼんやり白くうごいたりする

 

 


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