産業組合青年会
宮澤賢治
祀られざるも神には神の身土(しんど)があると
あざけるやうなうつろな声で
席をわたつたそれは誰だ
……雪をはらんだつめたい雨が
闇をぴしぴし縫つてゐる……
まことの道は
誰が云つたの行つたの
さういふ風のものでない
祭祀の有無を是非するならば
卑賤の神のその名にさへもふさはぬと
いきまき応(こた)へたそれは何だ
……ときどき遠いわだちの跡で
水がかすかにひかるのは
東に畳む夜中の雲の
わづかに青い燐光による……
部落部落の小組合が
ハムをつくり羊毛を織り医薬を頒ち
村ごとの、また、その聯合の大きなものが
山地の肩をひととこ砕いて
石灰岩末の幾千車かを
酸(す)えた野原にそゝいだり
ゴムから靴を鋳たりもしやう
……くろく沈んだ並木のはてで
見えるともない遠くの町が
ぼんやり赤い火照りをあげる……
しかもこれら熱誠有為な村々の処士会同の夜半
祀られざるも神には神の身土があると
老いて呟くそれは誰だ