一八四

     

                  一九二四、八、二二、

   

   空気がぬるみ、沼には水百合の花が咲いた

   むすめたちは、みなつややかな黒髪をすべらかし

   あたらしく

   また春らしい水いろの上着

   プラットフォームの陸橋の段のところでは

   赤縞のずぼんをはいた老楽長が

   そらこんな工合だといふ ふうで

   楽譜を読んできかせてゐるし

   山脉はけむりになってほのかにながれ

   鳥は燕麦のたねのやうに

   いくかたまりもいくかたまりも過ぎ

   青い蛇はきれいなはねをひろげて

   そらのひかりをとんで行く

   ワルツ第CZ号の列車は

   まだ向ふのぷりぷり顫ふ地平線に

   その白いかたちを見せてゐない

 

 


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