心象スケツチ(春 二篇)
ワルツ第CZ号列車
空気がぬるみ沼には水百合の花が咲いた
むすめ達はみなつややかな黒髪をすべらかし
あたらしい紺のペツテイコートや
また春らしい水いろの上着
プラツトホームの陸橋の所では
赤縞のずぼんをはいた老楽長が
そうこんな工合だといふ ふうで
楽譜を読んできかせてゐるし
山脉はけむりになつてほのかにながれ
鳥は燕麦のたねのやうに
いくかたまりもいくかたまりも過ぎ
青い蛇はきれいなはねをひろげて
そらのひかりをとんで行く
ワルツ第CZ号列車は
まだ向ふのぷりぷり顫ふ地平線に
その白いかたちを見せてゐない
(プレリユード)