一六五

     

                  一九二四、七、一三、

   

   緑青の巨きな松の嶺から

   四疋の鳥が吐き出されれば

   そこは恐ろしく黝んだ積雲の盛りあがりで

   一つの咽喉が黄いろに焦げついたり

   それがまたくっきり次に投影されたり

   下では融けかゝるオレフィンの雲や

   すさまじい天の混乱の序曲です

   またひときれの雷が鳴り

   どこかで杏を灼く匂もする

      (風がわたくしを熱します)

     松林のなかにわけ入ってみれば

     あたらしいテレピン油の香が胸をうち

     炭窯の中には小さなドラモンド光もあって

     一羽の連雀が叫んでゐる

      ぜんたいドラモンド光は眼にわるい

      (まあ あたし

       月見草の花粉でいっぱいだわ)   ※

   かきつばたの火は燃える燃える

 

   雲がちらばるとき

   いちめん若い赤楊の木の群落が

   硅孔雀石(クリソコラ)の葉をさんさんと鳴らす

 

 

       ※ 一五八と同種の幻聴です

 

 


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