一五八

     夏幻想

                  一九二四、七、一二、

   

   紺青の地平線から

   かすかな茶いろのけむりがあがる

     イーハトヴ川は顥気をながし

     山はまひるのうれひをながす

       (まあ大きなバッタカップですこと)

       (いゝえ あれは Oenothera lamarkeana

        ふだんよくいふつきみさうです)

   燕麦の白い鈴の上を

   二疋のへらさぎがわたって行く

     遠くでひときれ雷が鳴り

     どこかで杏を灼くけむり

       (風が額を熱します)

     松の林の足なみは

     ごくあたらしいテレピンの香と

     炭窯のなかには小さなドラモンド光もあって

     一羽の連雀が叫んでゐる

       (まああたし

        月見草の花粉でいっぱいだわ)

     アイリスの火はぼそぼそ燃える

   紺青の地平線には

   爆鳴銀がしづかに澱む

 

 


次の草稿形態へ→

<亡妹と銀河 詩群>へ→