夏幻想
一九二四、七、一二、
紺青の地平線から
かすかな茶いろのけむりがあがる
イーハトヴ川は顥気をながし
山はまひるのうれひをながす
(まあ大きなバッタカップですこと)
(いゝえ あれは Oenothera lamarkeana
ふだんよくいふつきみさうです)
燕麦の白い鈴の上を
二疋のへらさぎがわたって行く
遠くでひときれ雷が鳴り
どこかで杏を灼くけむり
(風が額を熱します)
松の林の足なみは
ごくあたらしいテレピンの香と
炭窯のなかには小さなドラモンド光もあって
一羽の連雀が叫んでゐる
(まああたし
月見草の花粉でいっぱいだわ)
アイリスの火はぼそぼそ燃える
紺青の地平線には
爆鳴銀がしづかに澱む