一九二四、六、二二、
あぢさゐいろの風だといふ
雲もシャツも染まるといふ
ここらの藪と火山塊との配列は
そっくりどこかの大公園に使へるといふ
絵に描くならば、却って薮に花
(ここで十分憩んで行かう間もなく谷になるからな)
東で何かかけがねをかふ音がした
それは騎兵の演習だらう
いやさうでない盛岡駅の機関庫さ
どうしてどうしてあれは盛岡銀行で
金庫の錠をかふのだといふ
フロックを着て金庫の前で
最敬礼をやるのだといふ
(こら! もっとしづかに草笛を吹け!)
先生先生 山地の上の重たいもやのうしろから
赤く潰れたおかしなものが出てくるといふ
(それはひとつの信仰だとさ! ジェームスによれば!)
ここらの空気は鉛糖のやう
甘く重たくなるといふ
うしろがまるで浮世絵風の
雲の澱みに変るといふ
月がおぼろな赤いひかりを送ってよこし
遠くで柏が鳴るといふ
それから先生鷹がどこかで磬を叩いてゐますといふ
(ああさうか 鷹が磬など叩くとしたら
どてらを着てゐて叩くでだらうな)
月はだんだん明るくなり
羊歯ははがねになるといふ
(あゝあ 流れる風はわたくしで
わたくしはまたその青い単斜のタッチの一片である
しかも月(ルーノ)よ
あなたの鈍い銅線の
二三はひとももって居ります)
(あゝ それは
あしたのひるかへしてください)
(何と云ったか きみは いま)
あっちでもこっちでも
鳥はしづかに叩くといふ