鳥の遷移
一九二四、六、廿一、
鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く
わたくしは二こゑのかくこうを聴く
あのかくこうがすこうしまへに啼いたのだ
それほど鳥はひとり無心にとんでゐる
鳥は遷り
あとはだまって飛ぶだけなので
ここはしばらく
原始のさびしい空虚になる
……きららかに畳む山地と ※
青じろいそらの縁辺……
鳥はもう見えず
いまわたくしのいもうとの
墓場の方で啼いてゐる
……その墓森の松のかげから
黄いろな電車がすべってくる
ガラスがいちまいふるえてひかる
もう一枚がならんでひかる……
鳥はいつかずっとうしろの
煉瓦工場の森にまはって啼いてゐる
あるひはそれはべつのかくこうで
さっきのやつはだまってくちはしをつぐみ
水を呑みたさうにしてそらを見上げながら
やっぱり墓の松の木などににとまってゐるかもわからない
※ そんな図形は鳥の啼くと啼かないとの
かういふ盈虚のなかにもあれば
あの質樸な音譜のうちにもはいってゐる
第六交響楽のなかでなら
もっとひらたく投影される