二七

     鳥の遷移

                  一九二四、六、廿一、

   

   鳥がいっぴき葱緑の天をわたって行く

   わたくしは二こゑのかくこうを聴く

   あのかくこうがすこうしまへに啼いたのだ

   それほど鳥はひとり無心にとんでゐる

   鳥は遷り

   あとはだまって飛ぶだけなので

   ここはしばらく

   原始のさびしい空虚になる

     ……きららかに畳む山地と      ※

       青じろいそらの縁辺……

   鳥はもう見えず

   いまわたくしのいもうとの

   墓場の方で啼いてゐる

     ……その墓森の松のかげから

       黄いろな電車がすべってくる

       ガラスがいちまいふるえてひかる

       もう一枚がならんでひかる……

   鳥はいつかずっとうしろの

   煉瓦工場の森にまはって啼いてゐる

   あるひはそれはべつのかくこうで

   さっきのやつはだまってくちはしをつぐみ

   水を呑みたさうにしてそらを見上げながら

   やっぱり墓の松の木などににとまってゐるかもわからない

 

           ※ そんな図形は鳥の啼くと啼かないとの

             かういふ盈虚のなかにもあれば

             あの質樸な音譜のうちにもはいってゐる

             第六交響楽のなかでなら

             もっとひらたく投影される

 

 


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