津軽海峡
一九二四、五、一九、
南には黒い層積雲の棚ができて
二つの古びた緑青いろの半島が
こもごもひるの疲れを払ふ
……しばしば海霧を析出する
二つの潮の交会点……
波は潜まりやきらびやかな点々や
反覆される異種の角度の正反射
あるひは葱緑と銀との縞を織り
また錫病と伯林青(プルシヤンブルウ)
水がその七いろの衣裳をかへて
朋に誇ってゐるときに
……喧(かしま)びやしく澄明な
東方風の結婚式……
船はけむりを南にながし
水脉は凄美な砒素鏡になる
早くも北の陽ざしの中に
蝦夷の陸地の起伏をふくみ
また雨雲の渦巻く黒い尾をのぞむ