九〇

     

                  一九二四、五、六、

   

   祠の前のちしやのいろした草はらに

   木影がまだらに降ってゐる

     ………鳥はコバルト山に翔け……

   ちしやのいろした草地のはてに

   杉がもくもくならんでゐる

     ……コバルト山に鳥は翔け……

   那智先生の筆塚が

   青ぐもやまた五月の底で

   銭のかたちの苔羅(コケラ)をつける

     ……鳥はコバルト山に翔け……

   塚のうしろで 二本の巨きなとゞまつが

   荒さんで青く天の氷に立ってゐる

     ……コバルト山に鳥は翔け……

   樹のいちいちの心からは

   ことしの夏の若枝が

   蒼蒼として風に描かれる

     ……鳥はあっちでもこっちでも

       朝のピッコロを吹いてゐる……

 

 


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