春
一九二四、五、六、
祠の前のちしやのいろした草はらに
木影がまだらに降ってゐる
………鳥はコバルト山に翔け……
ちしやのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
……コバルト山に鳥は翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた五月の底で
銭のかたちの苔羅(コケラ)をつける
……鳥はコバルト山に翔け……
塚のうしろで 二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く天の氷に立ってゐる
……コバルト山に鳥は翔け……
樹のいちいちの心からは
ことしの夏の若枝が
蒼蒼として風に描かれる
……鳥はあっちでもこっちでも
朝のピッコロを吹いてゐる……