―――――――――――――――――
春 宮 澤 賢 治
―――――――――――――――――
祠(ほこら)の前のちしやのいろした草はらに
木(こ)影がきれいに降つてゐる
……鳥はコバルト山に翔け……
ちしやのいろした草地のはてに
杉がもくもくならんでゐる
……鳥はコバルト山に翔け……
那智先生の筆塚が
青ぐもやまた春の底で
銭のかたちの粉苔をつける
……鳥はコバルト山に翔け……
塚のうしろで二本の巨きなとゞまつが
荒さんで青く天の氷に立つてゐる
……鳥はコバルト山に翔け……
樹のいちいちの心からは
ことしの夏の設計が
あをあをとして雲に描(か)かれる
……鳥はあつちでもこつちでも
朝のピツコロを吹いてゐる……