郊外
一九二四、五、四、
風が七時の汽車のひびきを吹いて来て
はやしの縁で巨きな硝子(ガラス)の壁になる
……その半成のローマネスクの内側で
鷺がするどく叫んでゐる……
こんどは風のすこしの外(そ)れを
かへるはにわかにぼそぼそすだく
蒼く古びた薄明穹の末端である
……こんやも山が焼けてゐる……
野原ははげしいかげらふのなみ
ぼんやりくらい麦波に
しまひは田圃のけむりのはてに
いちれつゆれる停車場の灯と
濁って赤い信号燈(シグナル)の浮標(ヴイ)
……焼けてゐるのは達曾部あたり……
あたらしいエンタシスある南の風が
彎みを越えて砕ければ
そこからほのかな野ばらのかほりもながれてくる
……山火がにはかに二つになる……
シグナルは青く変ってすきとほり
明るく映えた急行列車の骨格が
防雪林を音なく北へかけぬける
……山火はけぶり 山火はけぶり……
かへるはあちこちしづかにすだき
星のまはりの青い暈
こんどはくらい稲光りから
わづかに風が洗はれる