七四

     〔東の雲ははやくも蜜のいろに燃え〕

                  一九二四、四、二〇、

   

   東の雲ははやくも蜜のいろに燃え

   丘はかれ草もまだらの雪も

   あえかにうかびはじめまして

   おぼろにつめたいあなたのよるは

   もうこの山地のどの谷からも去らうとします

   ひとばんわたくしがふりかヘりふりかヘり来れば

   巻雲のなかやあるひはけぶる青ぞらを

   しづかにわたってゐらせられ

   また四更ともおぼしいころは

   やゝにみだれた中ぞらの

   二つの雲の炭素棒のあひだに

   古びた黄金の弧光のやうに

   ふしぎな御(み)座を示されました

   まことにあなたを仰ぐひとりひとりに

   全くことなったかんがへをあたへ

   まことにあなたのまどかな御座は

   つめたい火口の数を示し

   あなたの御座の運行は

   公式にしたがってたがはぬを知って

   しかもあなたが一つのかんばしい意志であり

   われらに答へまたはたらきかける、

   巨きなあやしい生物であること

   そのことはいましわたくしの胸を

   あやしくあらたに湧きたゝせます

   あゝあかつき近くの雲が凍れば凍るほど

   そこらが明るくなればなるほど

   あらたにあなたがお吐きになる

   エステルの香は雲にみちます

   おゝ天子

   あなたはいまにはかにくらくなられます

 

 


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