普香天子
一九二四、四、二〇、
お月さま
東の雲はもう石竹のいろに燃え
丘はかれ草も銀の雪も
すっかり明るくなりましたが
おぼろにつめたいあなたのよるは
もうこの山地のどの谷からも去らうとします
ひとばんわたくしがふりかヘりふりかヘり来れば
巻雲のなかやあるひはわづかにかすむ青ぞらに
しづかにかかってゐらせられ
また黎明のはじまりには
二つの雲の炭素棒のあひだに
黄いろの古風な弧光のやうに
熟しておかゝりあそばした
むかしの普香天子さま
あなたの近くの雲が凍れば凍るほど
そこらが明るくなればなるほど
あなたがそらにお吐きになる
エステルの香は雲にみちます
おつきさま
あなたはいまにはかにくらくなられます