四六

     山火

                  一九二四、四、六、

   

   血紅の火が

   氷河のやうにぼんやり尾根をすべったり

   またまっ黒ないただきで

   奇怪な王冠のかたちをつくり

   焔の舌を吐いたりする

     ……夜の微塵はしげく降り

       ひばやねずこの髪もみだれる……

   あるいひはコロナや花さふらんの形にかはる

   その恐ろしい巨きな闇の華のした

   犬の叫びが

   崖や林にあやしくこだまするなかを

   ひとびとは雲に懺悔の灰をとり

   四句誓願をはるかな雷のひびきに和して

   この夜をひと夜

   まだ夜に出でぬ童子なる菩薩をたづね

   しづか峡をわたって行く

 

 


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