山火
一九二四、四、六、
血紅の火が
氷河のやうにぼんやり尾根をすべったり
またまっ黒ないただきで
奇怪な王冠のかたちをつくり
焔の舌を吐いたりする
……夜の微塵はしげく降り
ひばやねずこの髪もみだれる……
あるいひはコロナや花さふらんの形にかはる
その恐ろしい巨きな闇の華のした
犬の叫びが
崖や林にあやしくこだまするなかを
ひとびとは雲に懺悔の灰をとり
四句誓願をはるかな雷のひびきに和して
この夜をひと夜
まだ夜に出でぬ童子なる菩薩をたづね
しづか峡をわたって行く
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