雲の肖像画
一九二四、四、四、
中空(なかぞら)は青くうららかなのに
西嶺(ね)の雪の上ばかり
ぼんやり白く淀んでゐる
そこにいくつもの雲の肖像画
……それはみな(一字不明)に
巨大な洪積人類の
方向のない Libido である……
ひばりはあちこち啼いてゐる
氷と藍との東橄欖山地から
つめたい風が吹いてきて
(おまへはわたしを犯してもいい)
つぎからつぎとまことをちかひ
またあかしやの棘ある枝を鳴らしたり
すがれの禾草を顫はせる
……そこに三本よもぎの茎が
素樸な木沓のおどりをつくる……
(エッコロ クアア)
風を無数のガラスの渦が浮き沈み
雲の肖像画はゆるやかに北へながれる
(eccolo qua !)