一九

     村道

                  一九二四、三、三〇、

   

   電線は伸びてうなりもきこえず

   赤楊やけやきのこまかな梢は

   すっかり玻璃の網をはった

   東は山も氷の稜も

   あんまり淡くけむってゐて

   まるで光と香ばかりでできてるやう

   湿田(ヒドロ)の方には

   朝の氷の骸晶が

   まだ融けないでのこってゐても

   高常水車の西側から

   くるみのならんだ崖のした

   地蔵堂の巨きな杉まで

   乾田(カタタ)の雪はたいてい消えて

   青いすずめのてっぽうも

   あちこちちらちら萌え出した

   みちはやはらかな湯気をあげ

   白い割木の束をつんで

   次から次と町へ行く馬のあしなみはひかり

   その一つの馬の列について来た黄いろな二ひきの犬は

   尾をふさふさした大きなスナップ兄弟で

   ここらのあかや熊犬と

   はげしく走って好意を交はす

 

 


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