心象スケツチ

    農事  三篇

               宮 澤 賢 治

 

     丘陵地

   

   きみのところはこの丘陵地のつづきだらう

   やつぱりこんな安山集塊岩だらう

   そすると松やこならの生え方なぞもこの式で

   田などもやつぱり段になつたりしてるだらう

   いつころ行けばいゝかなあ

   ぼくの都合は

   まあ

   四月の十日ころまでだ

   木を植える場処や何かも決めるから

   ドイツ唐檜とバンクス松とやまならし

    やまならしにもすてきにひかるやつがある

   白樺は林のへりと憩みの草地に植えるとして

   あとは杏の蒼白い花を咲かせたり

   さう云ふふうにしてきれいにこさえとかないと

   なかなかいいお嫁さんになど行かないよ

   雪が降り出したもんだから

   きみはストウブのやうに赤くなつてるねえ

     ……水がごろごろ鳴つてゐる……

   おや 犬が吠え出したぞ

   さう云つちや失敬だが

   まづ犬のなかのカルゾーだな

   喇叭のやうないゝ声だ

     ……ひのきのなかの

       あつちのうちからもこつちのうちからも

       こどもらが叫びだしたのは

       犬をけしかけてゐるのだらうか

       それともおれたちを気の毒がつて

       とめやうとしてゐるのだらうか……

   ははあ きみは日本(につぽん)犬ですね

     黄いろな耳がちよきんと立つて

     積藁の上にねそべつてゐる

     顔には茶いろな縞もある

   どうしてぼくはこの犬を

   こんなにばかにするのだらう

   やつぱりしやうが合はないのだな

     ……どうだ雲が地平線にすれすれで

       そこに一条 白金環さへできてゐる

 

 


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