夜と柏。(一九二二・六・三・)

   

   こゝは草があんまり荒く、

   空気を吸ひ倒れるには適しない。

   そこに水いろによこたはり

   一列、生徒らがやすんでゐる。

    (陰はつめたさと亜鉛とでできてゐる。)

   それをうしろへ、

   私はこの草にからだを投げる。

   月はいま次第に銀のアトムを失ひ、

   柏はからだを黒くかがめる。

   「あゝ、俺あど死んでもい。」

   「おらも死んでもい。」

    (それは宮沢かさうでなければ小田島国友、

     向ふの闇のところがちらちらっと顫ふのは

     Egmont Overture にちがひない。

     誰がいまの返事をしたかは私は考へないでいゝ。)

   「伝さん、シャッツ何枚、三枚着たの?。」

   伝さんは月光のうしろの鈍い黄昏のなか、

   きっと口をまげて人のよささうな笑ひかたをしてゐる。

   降って来るものはよるの微塵や風のかけら。

   横に鉛の針になって流れるものは月の光。

                 (以下草稿なし?)

   

 


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