栗鼠と色鉛筆

   

   樺の向ふで日はけむる

   つめたい露でレールはすべる

   靴革の料理のためにレールはすべる

   朝のレールを栗鼠は横切る

   横切るとしてたちどまる

   尾は der Herbst

    日はまつしろにけむりだし

   栗鼠は走りだす

     水そばの苹果緑(アツプルグリン)と石竹(ピンク)

   たれか三角やまの草を刈つた

   ずゐぶんうまくきれいに刈つた

   緑いろのサラアブレツド

     日は白金をくすぼらし

     一れつ黒い杉の槍

   その早池峰(はやちね)と薬師岳との雲環(うんくわん)

   古い壁画のきららから

   再生してきて浮きだしたのだ

     色鉛筆がほしいつて

     ステツドラアのみぢかいペンか

     ステツドラアならいいんだが

     来月にしてもらひたいな

     まああの山と上の雲との模様を見ろ

     よく熟してゐてうまいから

 

 


   ←初版本の形態へ