電車

   

   トンネルヘはいるのでつけた電燈ぢやないのです

   車掌がほんのおもしろまぎれにつけたのです

   こんな豆ばたけの風のなかで

   

    なあに、山火事でござんせう

    なあに、山火事でござんせう

    あんまり大きござんすから

    はてな、向ふの光るあれは雲ですな

    木きつてゐますな

    いゝえ、やつぱり山火事でござんせう

   

   おい、きさま

   日本の萓の野原をゆくビクトルカランザの配下

   帽子が風にとられるぞ

   こんどは青い稗(ひえ)を行く貧弱カランザの末輩

   きさまの馬はもう汗でぬれてゐる

 

 


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(宮澤家本は手入れなし)