宗谷〔二〕

   

   そらの微光にそゝがれて

   いま明け渡る甲板は

   綱具やしろきライフヴイ

   あやしく黄ばむ排気筒

   

   はだれに暗く緑する

   宗谷岬のたゞずみと

   北はま蒼にうち睡る

   サガレン島の東尾や

   

   黒き葡萄の色なして

   雲いとひくく垂れたるに

   鉛の水のはてははや

   朱金一すぢかゞやきぬ

   

   髪を正しくくしけづり

   セルの袴のひだ垂れて

   古き国士のおもかげに

   日の出を待てる紳士あり

   

   船はまくろき砒素鏡を

   その来しかたにつくるとき

   漂ふ黒き材木と

   水うちくぐるかいつぶり

   

   俄かに朱金うち流れ

   朝日潰ひて出で立てば

   紳士すなはち身を正し

   高く柏手うちにけり

   

   時にあやしやその古金

   雲に圧さるゝかたちして

   次第に潰ひ平らめば

   紳士怪げんのおもひあり

   

   その虚の像のま下より

   古めけるもの燃ゆるもの

   湧きたゝすもの融くるもの

   まことの日こそのぼりけり

   

   舷側は燃えヴイも燃え

   綱具を燃やし筒をもし

   紳士の面を彩りて

   波には黄金の柱しぬ

 

 


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