宗谷

   

   明の微光にそゝがれて

   いま明け渡る甲板は

   綱具やしろきライフヴイ

   あやしく黄ばむ排気筒

   

   はだれに暗く緑する

   宗谷岬のたゞずみや

   北はま蒼にうち睡る

   サガレン島の東の尾

   

   黒き葡萄の色なして

   雲たゞひくく垂れたるに

   鉛の水のはてははや

   朱金一すぢかゞやきぬ

   

   髪を正しくくしけづり

   セルの袴のひだ直ぐに

   古き国士のおもかげに

   日の出を待てる紳士あり

   

   船はまくろき砒素鏡を

   その来しかたにつくるとき

   漂ふ黒き材木と

   水うちくぐるかいつぶり

   

   俄かに朱金うち流れ

   朝日潰ひて出で立てば

   紳士すなはち身を正し

   高く柏手うちにけり

   

   時にあやしやその古金

   雲に圧さるゝかたちして

   次第に潰ひ平らめば

   紳士怪げんのおもなせり

   

   その虚の像のま下より

   古めけるもの燃ゆるもの

   湧きたゝすもの融くるもの

   まことの日こそのぼりけり

   

   舷側は燃えヴイの燃え

   綱具を燃やし筒をもし

   紳士の面を彩りて

   波には黄金の柱しぬ

 

 


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