森の上のこの神楽殿

   いそがしくのぼりて立てば

   かくこうはめぐりてどよみ

   松の風頬を吹くなり

   

   野をはるに北をのぞめば

   紫波の城の二本の杉

   かゞやきて黄ばめるものは

   そが上に麦熟すらし

   

   さらにまた夏雲の下、

   青々と山なみははせ、

   従ひて野は澱めども

   かのまちはつひに見えざり

   

   うらゝかに野を過ぎり行く

   かの雲の影ともなりて

   きみがべにありなんものを

   

   さもわれののがれてあれば

   うすくらき古着の店に

   ひとり居て祖父や怒らん

   いざ走せてこととふべきに

   

   うちどよみまた鳥啼けば

   いよいよに君ぞ恋しき

   野はさらに雲の影して

   松の風日に鳴るものを

 


   ←前の草稿形態へ