〔しののめ春の鴇の火を〕

   

   しののめ春の鴇の火を

   アルペン農の汗に燃し

   縄と菩提樹皮にうちよそひ

   風とひかりにちかひせり

     四月は風のかぐはしく

     雲かげ原を超えくれば

     雪融けの 草をわたる

   黒玢岩(メラフアイアー)の高原に

   生しののめの火を燃せり

   

   島わの遠き潮騒えを

   森のうつゝのなかに聴き、

   羊歯のしげみの奥に

   青き椿の実をとりぬ、

     黒潮の香のくるほしく

     東風にいぶきを吹き寄れば

     百千鳥すだきいづる

   三原の山に燃ゆる火の

   なかばは雲に(とざ)されぬ

   

 


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