兇賊

   

   人なき山路二十里を

   すでに走りて稲妻は

   丘のはざまの月あかり

   水杵をのぞみとゞまりぬ

 

   月のあかりをぼろぼろと

   こぼして槽はのぼれども

   杵はさびしやうつろなる

   臼をそだゞくのみなりき

 

   さらばとみちをよこぎりて

   家の内外をうかゞへば

   七十ばかり廐肥の束

   月にならびて干されけり

 

   おぼろに鈴の音するは

   睡れる馬の胸らしく

   山の畑のつかれはも

   ひとらもうまゐと見えにけり

 

   人なき山路二十里を

   すでに走りて稲妻は

   水一口をほゝばりて

   ふたゝび遁れはしりけり

 

 


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