〔秘事念仏の大師匠〕〔二〕
秘事念仏の大師匠、 元信斉は妻子もて、
北上ぎしの南風、 けふぞ陸穂を播きつくる。
雲紫に日は熟れて、 青らみそめし野いばらや、
川は川とてひたすらに、 八功徳水ながしけり。
たまたまその子口あきて、 楊の梢に見とるれば、
元信斉は歯軋りて、 石を発止と投げつくる。
蒼蠅ひかりめぐらかし、 練肥(ダラ)を捧げてその妻は、
たゞ恩人ぞ導師ぞと、 おのが夫(つま)をば拝むなり。
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