自働車群夜となる

   

   博物館も展覧会もとびらをしめて

   黄いろなほこりも朧ろに甘くなるころは

   その公園の特にもうすくらい青木通りに

   じつにたくさんの自働車が

   行水をする黒い烏の群のやうに集って

   行ったり来たりほこりをたてゝまはったり

   とまって葉巻をふかすやうに

   ぱっぱと青いけむをたてたり

   つひには一列長くならんで

   往来の紳士やペンテッドレデイをばかにして

   かはりばんこに蛙のやうに

   グッグッグッグとラッパを鳴らす

   

         マケィシュバラの粗野な像

   

   最后に六代菊五郎氏が 赤むじゃくらの頬ひげに

   白とみどりのよろひをつけて

   水に溺れた蒙古の国の隊長になり

   毎日ちがったそのでたらめのおどりをやって

   昔ながらの高く奇怪な遺伝をもった

   仲間の役者もふきださせ

   幕が下がれば十時がうって

   おもてはいっぱい巨きな黒い烏の群

   きまった車は次次ヘッドライトをつけて

   電車の線路へすべって出るし

   きまらないのは磁石のやうに

   一つぶ二つぶ砂鉄のかけらを吸ひつけて

   まもなくピカリとあかしをつける

   四列も五列もぞろぞろぞろぞろ車がならんで通って行くと

   三等四等をやっとの思ひで芝居だけ見た人たちは

   肩をすぼめて一列になり

   鬼に追はれる亡者の風に

   もうごく仲よく帰って行く