高架線

                  一九二八、六、一〇、

   

   未知の青ぞらにアンテナの櫓もたち

      ……きらめくきらめく よろひ窓

        行きかひきらめく よろひ窓

        ひらめくポプラと 網の窓……

   羊のごとくいと臆病な眼をして

   タキスのそらにひとり立つひと

      ……車体の軋みは六〇〇〇を超え

        方尖赤き屋根をも過ぎる……

      タキスのそらに

      タキスのそらに

      タキスのそらに

   酸化礬土と酸水素焔にてつくりたる

   紅きルビーのひとかけを

   ごく大切に手にはめて

   タキスのそらのそのしたを

   羊のごときやさしき眼してひとり立つひと

      ……楊梅もひかり

          もひかり

        都市は今日

        エヂプト風の重くて強い容子をなせり……

      赤のエナメル

      赤のエナメル

           (安山岩の配列を

            火山の裾のかたちになして

            第九タイプの Bush を植えよ)

      江川坦庵作とも見ゆる

      黒くて古き煙突も

      タキスのそらにそゝり立つ

   

   六月の処女は

   みづみづしき胸をいだいて

   すくやかにその水いろのそらに立つ

       ……いとうるはしきひとびとの

         そぐへるごとくよそほひて

         タキスの天に立つことは

         束西ともによしとせり……

   地球儀または

   大きな正金銀行風の

   金の Ball もなめらかに

   タキスのそらにかゞやいて立つ

      街路樹は何がよきやと訊ねしに

      わが日本には

      いてふなどこそ

      ふさはしかりと技師答へたり

    わがために

    うすき衣を六月の風にうごかし示したるひと……

   ひかりかゞやく青ぞらのした

   労農党は解散される

      ……えゝとグリムの童話のなかで

        狐のあだ名は何でしたかな……

      ……たしか レオポルドで……

      ……さう レオポルド

        それがたくさん出て居りますな……

   一千九百二十八年では

   みんながこんな不況のなかにありながら

   大へん元気に見えるのは

   これはあるひはごく古くから戒められた

   東洋風の倫理から

   解き放たれたためでないかと思はれまする

   ところがどうも

   その結末がひどいのです。

   

   

   この大都市のあらゆるものは

   炭素の微粒こまかき木綿と毛の繊維

   ロームの破片

   熱く苦しき炭酸ガスや

   ひるのいきれの層をば超えて

   かのきららけき氷窒素のあたりヘ向けて

   その手をのばし

   その手をのばし

   その手をのばし

   まさしく風にひるがへる

   プラタヌス グリーン ランターン

   プラタヌス グリーン ランターン

        幾層ひかる意慾の波に

        幾層ひかる意慾の波に

   ぱっとのぼるはしろけむり

   銀のモナドのけむりなり

   海風はいま季節風に交替し

   ひるがへる ひるがへる黄の朱子サティン

   ゆるゝはサリックスバビロニカ

   ひかるはブラスの手すりの穂

   ひかるはブラスの手すりのはしら

   

      二きれ鯖ぐもそらにうかんで

      ガラスはおのづと蛍石片にかはるころ

   

   ^Si ne estas belaner nin !

   

   Li ne estas Glander min !

   

   Mi ne estas Slander min !

   

         かぼそきひるの触手はあがる

         温んでひかる無数の gas のそのひもは

         都会のひるの触手にて

         氷窒素のかゞやく圏にいたるべく

         あまりに弱くたゆたひぬ

     かゞやき青き氷窒素の層のかなたに!

     かゞやく青き氷窒素のかなたより

     天女の陥ちてきたりしに

     そのかげらふの底あたり

     鉄のやぐらの林あり

     そは天上の樹のごとく

     白く熟れたる碍子群あり

     天女来りて摘みたるに

     そは修羅のぐみ

     黄いろに澱む硫黄にて

     嘆きの声は風に充ちしと

   きらゝかに海の青く湛ゆるを

   練瓦の家の屋根やぶれ

   青き灝気も風景ももる

   

     いまこのつかれし都に充てる

     液のさまなす気を騰げて

     岬と湾の青き波より

     檜葉亘れる稲の沼より

     はるけき巌と木々のひまより

     あらたに澄める灝気を送り

     まどろみ熱き子らの頬より

     汗にしみたるシャツのたもとに

     またものうくも街路樹を見る

     うるみて弱き瞳と頬を

     いとさわやかにもよみがへらせよ

     緑青ドームさらに張るとも

     いやしき鉄の触手ゆるとも

     はては天末うす赤むとも

     このつかれたる都のまひる

     いざうましめずよみがへらせよ

   

     そのうるはしくわかやぐ胸を

     水銀をもて充てたるゆゑに

     たゞしきひとみの前には耐えず

     かなしきさまなるひとにも吹けよ

   

     あゝひとおのおのわざをもなせど

     つみひとになくわれらにあらん

     あまねきちからに地をうるほをし

     なべてのなやみをとはにも抜かん

     まことのねがひにたゝずやわれら

   

     いかにやひとびとねたみとそねみ

     たがひのすべなききほひとうれひ

     みだれてすゑたるひかりのなかに

     すゑたるししむらもとむるちから

     なべてのちからのかたちをかへて

     とはなるくるしみ抜かんとせずや

     見ずや扉もよそほひなせば

     おもひをこめたるうでにもまさり

     いくたびしづかに・・・を・・・

     いとしとやかにもとざされたるを