〔疾いま革まり来て〕

   

   疾いま革まり来て

   わが額に死の気配あり

   

   いざさらばわが業のまゝ

   いづくにもふたゝび()れん

   

   たゞひたにうちねがへるは

   すこやけき身をこそ受けて

   もろもろの恩をも報じ

   もろびとの苦をも負ひ得ん

   

   さてはまたなやみのなかと

   数しらぬなげきのなかに

   すなほなるこゝろをもちて

   よろこばんその性を得ん

   

   さらばいざ (しに)よとり行け

   この世にて わが経ざりける

   数々の快楽の列は

   われよりも美しけきひとの

   すこやかにうちも得ななん

   そのことぞいとゞたのしき

 

 


   ←前の草稿形態へ