一九二九、四、二八、

   

   これで二時間

   咽喉からの血はとまらない

   おもてはもう人もあるかず

   樹などしづかに息してめぐむ春の夜

   こゝこそ春の道場で

   菩薩は億の身をも棄て

   諸仏はこゝに涅槃し住し給ふ故

   こんやもうこゝで誰にも見られず

   ひとり死んでもいゝのだと

   いくたびさうも考をきめ

   自分で自分に教へながら

   またなまぬるく

   あたらしい血が湧くたび

   なほほのじろくわたくしはおびえる