〔風がおもてで呼んでゐる〕

   

   風がおもてで呼んでゐる

   「さあ起きて

   赤いシャッツと

   いつものぼろぼろの外套を着て

   早くおもてへ出て来るんだ」と

   風が交々叫んでゐる

   「おれたちはみな

   おまへの出るのを迎へるために

   おまへのすきなみぞれの粒を

   横ぞっぽうに飛ばしてゐる

   おまへも早く飛びだして来て

   あすこの稜ある巌の上

   葉のない黒い林のなかで

   うつくしいソプラノをもった

   おれたちのなかのひとりと

   約束通り結婚しろ」と

   繰り返し繰り返し

   風がおもてで叫んでゐる

 

 


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