こどもらがたまりいっぱい

   走ったりさわいだりしてゐるので

   この古ぼけた学校は

   まるで米搗水車のやう

   水の代りに鳴るのは吹雪

   米糠の代りにたつのはほこり

   校長シルレル先生と

   紋付を着たマグダル女史は

   拙者のあはれなゴム靴を

   やゝ微笑して見おろしてゐる

   さても溜りに上ってみれば

   にはかに風がなくなったので

   どこがのどだかどこが耳だかわからない

   鍵裂きになった外套を

   玄関わきの釘にかけ

   校長さんに従って

   職員室に一足はいれば

   ぱっと眉をひそめるものは

   黄の狩衣によそほへる

   日高神社のせい高別当

   半分立って迎へるものは

   一昨年円満辞職した

   この学校の前校長

   黒紋付に袴をはいた

   二人の小さなお百姓さんは

   ここの部落のたぶん二人の有力家

   いつか拙者は半分椅子に腰掛けて

   おじぎをしながらたしかにお茶をのんでゐる

   何といってもあのまっ青な大高気圧の底で

   乾いた吹雪を二里かけ抜けて来たもんだから

   耳だの頬だのぼうぼうほてって仕方ない

   みんなだまってお茶をのむ

   校長さんもだまってお茶をつぎまはる

   うらゝに濁り粕もはいった日本の緑茶

   分教場の旧校長は

   円く古びた茶絣を着て

   誠心誠意と誰かの書いた

   巨きな額を見上げてゐるし

   株主たちもたゞひたすらに謙虚なだけ

   校長さんもかすかにみんなを見較べながら

   とにかく椅子にこしかける

   我輩ひとつ何とか云へばいゝのだが

   何せぎらぎらの青ぞらの下で

   咽喉をすっかりやられたもんで

   おかしな声を出しなどしたら

   却って悪い結果にもなる

   まあ仕方なくまたお茶をのむ

   日高神社の別当が

   いまだに眉を刻むのは

   たぶん一昨年月明の夏

   あの早池峰の原林を

   十人ばかりの手下をひきへ

   この別当がまっさきになってやって来て

   いきなりおれに行き遭って

   声を発して二歩退いた

   その印象が第一で

   次には何といっても

   拙者の覇気といふものが

   あまり愉快でないらしい

   こどもらがこっそりかはるがはる来て

   がらすの戸からのぞくのは

   水族館のやうでもある

 

 


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