〔馬が一疋〕
馬が一疋
米を一駄大じにつけて
ひかって浅い吹雪の川を
せいいっぱいにあるいてくる
ひともやっぱり
十本ばかりの松の林をうしろにしょって
下ばかり見てとぼとぼくる
駒頭から台へかけて、
草場も林も
山は一列まっ白だ
上ではそらが青じろく晴れて
マイナスのシロッコともいふやうな
乾いてつめたい風を
まっかうから吹きつければ
その青びかるそらが、
つい敵といふ気にもなる
傘のかたちの林をしょって
五十駄の収穫が六十駄になっても
かくべつくらしは楽にならないと
あきらめたやうなわらひを
蓮華の花びらの形の唇にうかべ
しづかに吹雪をわたってくる
馬の髪はばしゃばしゃ
びっしょり汗をかきながら
吹雪に吹かれてあるいてゐるのだ