〔しばらくだった〕
しばらくだった
やつれたなあ
とてもまだまだ降りさうもない
下葉が赤くなったらう
……冬は氷と火にあふれ
春はけむりをながしてゐて
いまはみんなの苦難をよそに
この崖下を南へすべる北上川……
しまひの水を引いてから
今日で二十日になるんだな
ひゞわれでねえ
ちょっとの水では、
みんなくぐってしまふからねえ
……きのふまでは
四十雀をじぶんで編んだ籠に入れて
づしだまの実も添えて
町へもってきてやったりした、
わり合ひゆたかな自作農のこどもだ……
川から水をあげるにしても
こゝはどうにもできないなあ
水路が西から来るからねえ
……はんのき
上流から水をあげて来て
耕地整理をやるってねえ
容易でないと思ふんだ
こんどは水はあがっても
それの費用が大へんだ
いつかは怒ってすまなかった
中学生だのきみが連れてきたもんだから
それに仕事の休みでない日
ぼくのところへ人がくると
近処でとてもおこるんだ
休み日は村でちがふんだが
あゝはやく雨がふって
あたりまへになって
またいろいろ、
果樹だの蜜蜂だの、
計画をたてられるやうになればいゝなあ
藺草を染めて
桐の花だのかくこうだの
きれいに織りだすことならば
いくらでもやるきみなんだがな