来訪

   

   水いろの穂などをもって

   三人づれで出てきたな

   さきに二階へ行きたまへ

   ぼくはあかりを消してゆく

   つけっぱなしにして置くと

   下台ぢゅうの羽虫がみんな寄ってくる

     ……くわがたむしがビーンと来たり、

       一オンスもあって

       まるで鳥みたいな赤い蛾が

       ぴかぴか鱗粉を落したりだ……

   ちゃうど台地のとっぱななので

   ここのあかりは鳥には燈台の役目もつとめ

   はたけの方へは誘蛾燈にもはたらくらしい

   三十分もうっかりすると

   家がそっくり昆虫館に変ってしまふ

     ……もうやってきた ちいさな浮塵子

       ぼくは緑の蝦なんですといふやうに

       ピチピチ電燈をはねてゐる……

   それでは消すよ

   はしごの上のところにね

   小さな段がもひとつあるぜ

     ……どこかに月があるらしい

       林の松がでこぼこそらへ浮き出てゐるし

       川には霧がしろくひかってよどんでゐる……

   いやこんばんは

     ……喧嘩の方もおさまったので

       まだ乳熟の稲の穂などを

       だいじにもってでてきたのだ……