〔湯本の方の人たちも〕

   

   湯本の方の人たちも

   一きりついて帰ったので

   ビラの隙からおもてを見れば

   雲が傷れて眼は痛む

   西洋料理支那料理の

   三色文字は赤から暮れ

   硝子はひっそりしめられる

   馬が一疋東へ行く

   古びた荷縄をぶらさげて

   雪みちをふむ

   引いて行くのはまだ頬の円いこども

   兵隊外套が長過ぎるので

   縄でしばってたごめてゐる

   行きちがひに出てくるのは

   政友会兼国粋会の親分格

   帽子もかぶらず

   手は綿入の袖に入れ

   がっしり丈夫な足駄をはいて

   身体一分のすきもなく

   こっちをぢろっと見るでもなし

   さりとて全く見ないでもなし

   堂々として行き過ぎるのは

   さすが親分の格だけある

   いつかおもてのガラスの前に

   白いもんぱのぼうしをかぶり

   絣の合羽にわらじをはいた

   眼のうす赤いぢいさんが

   読んでゐるのか見てゐるか

   物でも噛むやうにして

   だまってぢっと立ってゐる

   ご相談でもありましたらと切り出せば

   何か銭でもとられるか

   かゝり合ひにでもなるかと

   早速ぽろっと遁げて行くのは必定だ

   結局こらえてだまってゐれば

   またこの夏もいもちがはやる

   こんどはこども 砂糖屋の家のこどもが

   スケートをはき手をふりまはしてすべって行く

   おぢいさんもぽろっと東へ居なくなる

   高木の部落なら

   その雪のたんぼのなかの

   ひばのかきねに間もなくつくし

   高松だか成島だか

   猿ヶ石川の岸をのぼった

   雑木の山の下の家なら

   もうとっぷりと暮れて着く

   たうたう出て来た林光左

   広東生れのメーランファンの相似形

   自転車をひっぱり出して

   出前をさげてひらりと乗る

   一目さんに警察の方へ走って行く

   遠くでは活動写真の暮れの楽隊