病院の花壇

   

   夜どほしの温い雨にも色あせず

   あんまり暗く薫りも高い

   この十六のヒアシンス

   

   まっ白な石灰岩の方形のなかへ

   水いろと濃い空碧で

   すっきりとした折線を

   二つ組まうとおもったのに

   東京農産商会は

   このまっ黒な春の吊旗を送ってよこし

   みんなはむしろいぶかしさうにながめてゐる

   今朝は截って

   春の水を湛えたコップにさし

   各科と事務所へ三つづつ

   院長室へ一本配り

   こゝへは白いキャンデタフトを播きつけやう

   つめくさの芽もいちめんそろってのびだしたし

   廊下の向ふで七面鳥は

   もいちどゴブルゴブルといふ

   女学校ではピアノの音

   にはかにかっと陽がさしてくる

   

   鋏とコップをとりに行かう