密醸

   

   汽車のひゞきがきれぎれ飛んで

   酸っぱくうらさむいこの夕がた

   楢の林の前に

   ひどく猫背のおばあさんが

   熊手にすがって立ってゐる

   右手をかざして空をみる

   それから何かを恐れるやうに

   ごく慎重にあたりを見て

   こっそり林へはいって行く

   あともうかさとも音はせず

   汽車のひゞきが遠くで湧いて

   灰いろの雲がばしゃばしゃとぶ