菊芋

   

   槻の向ふに日が落ちて

   つめたい風は西から吹き

   遠くで叫ぶこどももある

   八月までは

   何の収入もないときめた

   この荒れ畑の切り返しから

   今日はどうしてこの収穫なのだ

   三十キロでも利かないやうな

   うすい黄いろのこの菊芋

   あしたもきっとこれだけとれる

   あさってだってとれるだらう

   エルサレムアーティチョークとさう云へば

   大ひまわりのあのいかめしい形がうかび

   トピナムボーとかトピナムブールとさう云へば

   イヌリンや果糖を含む

   このかんばしい塊根がまさにそれになる

   とは云へこゝらあたりでは

   誰も一人も買い手がない

   結局おれが

   焼いたり漬けたり

   毎日毎日食ふだけだ

   おれがほんものの清教徒なら

   或ひは一〇〇%のおさむらひなら

   これこそ天の恵みと考へ

   佐藤昌五郎氏のやうに

   町あたりから借金なんぞ一文もせず

   八月までは

   だまってこれを食ふ筈だ

   但しそれでは必ず参る

   参って死んでしまっても

   動機説では成功といふ

   ところがおれのこのごろは

   動機や何かの善よりも

   行程の方を重しとする

   そこでやっぱり本なども売り

   ぽろぽろ借金などもして

   曖昧な暮しやうをするといふのは

   すでに魔道といふものだらう

   とにかく汗でがたがた寒い

   道具を集めて

   早く帰って火を焚かう

 

 


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