〔爺さんの眼はすかんぼのやうに赤く〕

   

   爺さんの眼はすかんぼのやうに赤く

   何かぶりぶり怒ってゐる

   白髪はぢょきぢょき鋏でつんだ

   いはゆるこゝらの芋の子頭

     ……そんならビタミンのX

       あるひはムチンのY号で

       この赤い眼が療らないか

       それは必ず治ってしまふ……

   鍋の下ではとろとろ赤く火が燃える

   おもてでは植えたばかりの茄子苗や

   芽をだしかけた胡瓜の畑に

   陽がしんしんと降ってゐて

   下の川では

   川上のまだまっ白な岩手山へ

   南の風がまっかうに吹き

   はりがねもピチピチ鳴れば

   せきれいもちろちろ鳴いてゐるやうだけれども

   条件の悪いことならば

   いまよりもっと烈しいときがいくらもあった

   この数月はたしかにどこかからだが悪い

     ……そんならビタミンのX

       あるひは乳酸石灰が

       この数月の傾向を

       療治するかと云ふのに

       こっちはそれを呑みたくない……

   飯はぶうぶう湯気をふき

   白髪の芋の子頭を下げて

   ぢいさんは木を引いてゐる