発動機船

   

   今日のおはりの火花をながし

   おはりの青いけむりをたてて

   つめたくなめらかな月あかりの水を

   いまは鉛のラッパも吹かず

   船は宮古の港にはいる

   船長はともにつっ立って

   黒く睡った荷船の列や

   近づく街の華やかな灯を見まもりながら 歯を食ひ合はせ

   ひとりわくわくふるへてゐる

   それは寒さと取引前の武者ぶるひ

   たぶんそこらの波止場では

   青いあくびを噛みながら

   敵が終りのぼろい獲物を待ってゐる

   冴えわたる星座やそらや

   また寒冷な陸風や

   測候所の黒い蛮岩と

   赤青燈を横に見て

   船はわづかに旋回し

   モートルはいま鳴り止んで

   代りにひゞく船底の声

     (羅賀で乗った

      あの外套を遁がすなよ

      海盛楼をおごらすからな)

   船長は聞き耳をたて

   箱の中では月にぎらぎら水いろの章魚

   船員たちも身構へすれば

   ぼんやりけぶる十字航燈

 

 


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