発動機船 一

   

   うつくしい素足に

   長い裳裾をひるがへし

   この一月のまっ最中

   つめたい瑯玕の浪を踏み

   冴え冴えとしてわらひながら

   こもごも白い割木をしょって

   発動機船の甲板につむ

   頬のあかるいむすめたち

     ……あの恐ろしいひでりのあと

       みのらなかった高原は

       いま一抹のけむりのやうに

       この人たちのうしろにかゝる……

   赤や黄いろのかつぎして

   雑木の崖のふもとから

   わづかな砂のなぎさをふんで

   石灰岩の岩礁へ

   ひとりがそれをはこんでくれば

   ひとりは船にわたされた

   二枚の板をあやふくふんで

   この甲板に負ってくる

   モートルの爆音をたてたまゝ

   船はわづかにとめられて

   潮にゆらゆらうごいてゐると

   すこしすがめの船長は

   甲板の椅子に座って

   両手をちゃんと膝に置き

   どこを見るともわからずに

   口を尖らしてゐるところは

   むしろ床屋の親方などの心持

   そばでは飯がぶうぶう噴いて

   角刈にしたひとりのこどもの船員が

   立ったまゝすりばちをもって

   章魚に酢味噌をまぶしてゐる

   日はもう崖のいちばん上で

   大きな榧の梢に沈み

   波があやしい紺碧になって

   岩礁ではしぶきも散れば

   またきららかなむすめのわらひ

   沖では冬の積雲が

   だんだん白くぼやけだす

 

 


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