〔船首マストの上に来て〕

   

   船首マストの上に来て

   あるひはくらくひるがへる

   煙とつはきれいなかげらふを吐き

   そのへりにはあかつきの星もゆすれる

    ……船員たちはいきなり飛んできて

      足で鶏の籠をころがす

      鶏はむちゃくちゃに鳴き

      一人は籠に手を入れて

      奇術のやうに卵をひとつとりだした……

   さあいまけむりはにはかに黒くなり

   ウンチは湯気を吐き

   馬はせはしく動揺する

   うすくなった月はまた煙のなかにつゝまれ

   水は鴇いろの絹になる

   東は燃え出し

   その灼けた鋼粉の雲の中から

   きよめられてあたらしいねがひが湧く

   それはある形をした巻層雲だ

    ……島は鶏頭の花に変り

      水は朝の審判を受ける……

   港は近く水は鉛になってゐる

   わたくしはあたらしく marriage を終へた海に

   いまいちどわたくしのたましひを投げ

   わたくしのまことをちかひ

   三十名のわたくしの生徒たちと

   けさはやく汽車に乗らうとする

   水があんな朱金の波をたゝむのは

   海がそれを受けとった証拠だ

    ……かもめの黒と白との縞……

   空もすっかり爽かな苹果青になり

   旧教主の月はしらじらかゝる

   かもめは針のやうに啼いてすぎ

   発動機の音や青い朝の火や

    ……みんながはしけでわたるとき

      馬はちがった方向から

      べつべつに陸にうつされる……