盛岡停車場。

   

   汽車の中は水色だ。

   そして乾いてゐるらしい。

   窓のガラスに額を寄せ

   お前さんはあんまり大きな赤い苹果に

   皮ごとパクッと喰ひつきます。

   (おい、あんまりきろきろ見るない。)

   えゝ、あの口はひからびてました。

   何だか私は泣きたいのです。

   それから変なあわてたものが、

   あの口のまはりに一杯集ってゐたのです。

   (何だ、つまらん。北海道から

    どこかへ帰る馬の骨。)

   それから、こちらでは

   あなたはべんたうをお買ひになるのですか。

   なるほどそれももっともです。

   どうです、辨当はおいしいですか。

   汽車が発ってからおはじめなさい。

   けれどもガラスの粗末な盃は

   大へんに光って気の毒ではありませんか。

   もう汽車が出ます。

   (えゝと、どこの何やらあなた方は。)

   どうせ今夜は汽車でお泊りでせう。

   それではさよならお大事に。

   ふりさけ見れば、

   ふりさけ見れば、

   落魄れかゝる青山を背負ひ

   ひとりいらだつアークライトと

   ペンキで描いた広告の地図に

   向ふ見ず衝き当る生意気の小鳥。